第4章〜謎〜
オンライン小説〜銀の騎士〜剣と魔法のファンタジー物語
金の貴公子(1)
貿易の街オーレは一年中暖かく過ごし易い為か、多くの旅人が長期滞在している。ハンターだけでなく、各国から集まる商人達でいつも賑わっていて、街のあちこちの広場で毎日様々な市が立つ。
野菜、果物、肉、魚、香辛料などは朝早くから、武器や道具や日用品は午後から、革細工や宝飾品などは夜からという一応の決まりはあったが、規制は緩く一日中屋台を出す店もあったので、欲しいと思ったものはすぐにでも手に入れる事ができた。
宿屋や酒場の数も多く、どの店もそれなりのにぎわいを見せているのだが、裏路地に入ればひっそりとしている店もいくらかあった。ここは、そんな静まり返った裏路地の店の一つである。
アースの店という小さな看板が掲げられたその店は、テーブルが三つにカウンター席が五つといったごく普通の造りであった。飲食店としては中程度の規模だが、窓がない為店内は薄暗い。カウンターの中には店の主人らしき年輩の男が一人、無表情で食器を拭いている。昼時だというのに客はたった一組、一番奥のテーブルに座っている二人組だけだった。
誰もいないのだから遠慮しなくてもいいようなものだが、やけに怪し気なひそひそ声で額を寄せあって話している。しかしこのたった一組の客に対しても、カウンターの中の男は全くの無関心だった。
二人の客は入り口に背を向けて座り、薄く切った黒パンにチーズをのせて口に運んでいる。一人は黒髪の、男性であるらしい。もう一人は絹糸のごとく流れる長く美しい金の髪が印象的だが、背を向けている為性別までは分からない。
ターリアは、入り口の扉から二名の客を確認してから、静かに店に入って来た。
「ただいま。」
と声をかけながら、持っていた野菜のかごを置こうとカウンターに近付く。
その声に二人の客が振り向いた途端、ターリアは息を呑んでドサッとかごを落とし、中の野菜を床中にぶちまけてしまった。
なにしろその青年ときたら・・・。
キラキラと音が聞こえそうな美しい金の髪を揺らして振り向いた青年は、人間であるとは思えない光り輝く微笑みをターリアに向けている。
慈悲深い明るい碧の瞳はまるで宝石のよう。男性とは思えない程肌は白く透き通っている。スッキリと通った鼻梁に、ほんのりと色付いた唇がターリアの目を奪う。
いにしへの神々を思わせるその青年は、足下に転がったりんごを優雅な仕草で拾い上げると、ゆっくりと立ち上がりターリアの方に足を踏み出した。
ターリアはその姿から目を離す事が出来ず、呆然と立ちすくんでいる。
青年はターリアの左手をとって、小さな手の平ににりんごを置く。
「はい。」
その唇から洩れた旋律は、どんな名楽器にも奏でる事が出来ないだろうと思われる不思議な音。
ターリアは渡されたりんごをまたぽろりと落としてしまった。
それから、ハッと気が付いて慌てて目を臥せると、急いで野菜を拾い始めた。
俯いて野菜を拾っていると青年もしゃがんでそれを手伝う。
ターリアの頭はもうパニックで、心臓のバクバクという音以外何も耳に入らない。
・・・ああどうしてこんな店に神様が!
どうしよう私ったらぶしつけに見つめてしまって!
りんごまで拾わせてしまった!
早くここから逃げ出したい!顔が上げられない!
ああ、野菜を拾う指もなんて美しいの!
違う!そんな事言ってる場合じゃないわ!
お願いですからもうそんな事しないで下さい!
早く拾い終わってこの場から立ち去りたいのに!
でも拾い終わったらなんて言えばいいの?
やっぱりこのまま永遠に野菜を拾っていたい。・・・
その時ひどく現実的な声が耳に届き、ターリアは、なんとか失いかけた自分を取り戻した。
「もう、何やってるんですか!あなたは向こうに行って、食事の続きをして来て下さい。これは私が拾いますから。」
もう一人の青年がやれやれというように立ち上がり、美しい一筋の金髪が流れる肩に軽く手を置いた。
「サンバール。どうして?私はただこのかわいらしいお嬢さんの手助けをしたいだけなのに。」
「どうしてじゃありませんよ。お嬢さんが困ってるのが分からないんですか?
さあさあ、あっちへ行って壁の方を向いてて下さい。」
褐色の肌を持った黒髪の青年が手早く野菜をかごに入れ、ターリアに渡す。
ターリアはこの時初めて、自分がちっとも野菜を拾っていなかった事に、気が付いた。
「あ、ありがとうございます。すみません。お客さんにこんな事させて。」
「いや、いいんですよ。元はといえば彼が悪いんですからね。」
言われた通り席に戻って、シュンとした様子でこちらに背を向ける青年を指差し、サンバールはため息を付く。
「さあ、セラム。もう行きましょう。」
「え?もう?だってまだスープが・・・。」
「いいから早く立って下さい。」
サンバールは金髪の青年を立たせると、マントのフードを深くかぶせた。
「顔出さないで下さいよ。」
カウンターにコインを置くと、
「ごちそうさま。」
と言って金髪の青年の腕をを引っ張り、足早に店から出て行く。
客が一人もいなくなると、ターリアは興奮した声ではしゃぎ始めた。
「ねえねえ父さん。今の人誰?人間だと思う?私は絶対に神様だと思うわ。
ねえ何時頃いらしたの?何を召し上がってた?」
外に出たサンバールはセラムに懇々と言い聞かせる。
「いいですか?絶対にこのフードを取らない事。せっかく誰もいない寂れた店を見つけたって言うのに、全く・・・。ちょっとは自覚を持って下さい。聞いてるんですか?」
「聞いているよ。フードをとってはいけないんだろう?でも、ここは随分と暑い場所だからね。こんなマントを着ているのは私だけじゃないか?これじゃあかえって怪しいのでは?」
「怪しくたって何だって、ぜ〜ったいにフードを取らないで下さいよ!私の苦労も少しは考えて下さい!」
「分かったよ。サンバール、君には感謝している。でも最近ちょっと怒りっぽいんじゃないか?」
「
誰のせいだと思ってるんですか!?大体あなたの我が儘で、私までこんな旅につきあわされているんですからね!その上あなたときたら、行く先々で問題ばかり起こして・・・くどくど・・・くどくど・・・。」
「あ!サンバール。あの店にある綺麗な布袋見てきたいな。」
「
あなたって人は!!人の話を聞いてるんですか!?」
サンバールの説教はその後、夜までずっと続き、
セラムは綺麗な布袋の店をのぞく事は出来なかった。
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