第1章〜王宮〜
オンライン小説〜銀の騎士〜剣と魔法のファンタジー物語
バルボーン城(1)
風に揺れる木漏れ日が、王宮の中庭を煌めかせている。
暖かいこんな平和な陽気は、ほんの短い間のことだ。後は厳しい寒さと、雪と氷の世界が待っている。一年で一番待ち遠しい短い春が、バルボーンの王宮にもやって来ていた。
3歳になったばかりの第一王子は、母親の胸に顔を埋めて甘えている。やわらかいふわふわの金髪が、弱い日ざしを受けていっそう輝いている。
バルボーン城では、王子は3歳になると母親から離されて、上に立つものとしての帝王学を徹底的に学ばされる事になる。
だが、幼い王子にはそんな事は分からなかった。
「今日からあなたは何でも一人で出来るようにしなければいけないわ。」
王妃である母親は、幼い王子の金色の髪を撫でながら、優しく呟いた。
「母様は、あなたと離れたくはないのよ、レギン。」
レギンと呼ばれた王子は、埋めていた顔をあげて王妃の美しい瞳を見つめた。そして、天使のような罪のない微笑みで、心配そうに覗き込む王妃の顔を綻ばせた。おそらく王妃の言ってる事がわかっていないのだろう。レギンは母親の膝の上で、ドレスの胸元のレース飾りをいじっている。
「あなたが心配なのよ、レギン。もうあまり会えなくなってしまうのですもの。もっとお顔をよく見せてちょうだい。」
王妃はなかば独り言の様に呟き、レギンは構わずドレスをいじくりまわして遊んでいた。
「王妃様、お時間でございます。」
控えていた侍女が王妃からこの愛らしい王子を取り上げる為にやって来た。
「もう少し、もう少し待って。」
王妃は切ない思いでレギンを抱きしめた。レギンの柔らかい頬に王妃の涙が伝った。レギンはびっくりして母親の顔をじっと見つめた。そして、にっこりと極上の笑みを与えた。
「おお、レギン。」
王妃は更にきつくレギンを抱きしめて、椅子から立ち上がった。
「お時間でございます。」
気の利かない侍女が催促すると、王妃は決心したようにレギンを侍女に渡した。
「かあたま?」
たどたどしくレギンが振り返る。王妃は何も言わずに、微笑んだ。
明るい緑色の瞳には涙が浮かんだままだった。それを見てレギンは哀しくなった。
「かあたま!」
侍女が歩き出したので、母親はどんどん遠ざかってゆく。レギンは母親のいる方向に精一杯手をのばした。そして長い廊下の角を曲がり、とうとう母親の姿が見えなくなると、大きな声で泣き出した。
レギンの泣き声は王妃の耳に届き、王妃はその場に泣き崩れた。もう2度と会えないという訳ではない。しかし、会う為には相当の努力がいる。そして会えたとしても、年に2〜3回のわずかな時間だけだとわかっている。
「こんなにつらい思いをするのなら、子など生まれなければよかったのに。」
王妃は心にもない事を、泣きながら呟いた。
「レギン……。」

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