第1章〜王宮〜
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バルボーン城(3)
「レギン様、お泣きやみになって下さい。今からお父様にお会いするのですよ。」
侍女は凄い勢いで泣き出した王子を持て余して、廊下で立ち止まったまま、なんとか泣き止ませようとしていた。侍女の言葉が功をそうして、レギンはぴたりと泣き止んだ。
「とうたま……?」
「そうですよ。ちょっとの間、お父様に御挨拶に行くだけですよ。」
侍女は嘘をついた。どうせ相手は三歳の子供だ。問題はあるまい。
侍女は泣き止んだ王子を急いで王の間に連れていった。
「遅くなって申し訳ございません。第一王子様をお連れ致しました。」
侍女はレギンを床に降ろし、王の前に深々と膝を折った。
「ごくろう。下がってよい。」
侍女は、レギンに微かに微笑んで、王の間を去ろうとした。しかし、レギンは侍女のスカートをつかんで離さない。侍女は困ったように王をちらっと見てから、王子の高さまでしゃがむと、小声で王子に耳打ちした。
「王子様、良い子になさらないとお母様にお会い出来なくなりますよ。」
レギンはパッとつかんでいた手を離し、侍女は再び王に膝を折って王の間を後にした。
ひとり取り残されたレギンは、不安な面持ちで王を見つめた。王の間には、王ともうひとり、黒髪の少年が立っているだけであった。
「レギン、こちらへ来なさい。」
王は努めて優しく微笑んだつもりだったが、レギンはビクッと体を堅くした。
「……とうたま?」
やっとの事で口を開く。目の前の人物が父だという感覚がレギンにはなかった。もう何日も会っていないので、忘れてしまったのである。確かに月に一度くらいは王に会っていた筈だ。しかし、いつも母親と一緒だったので、父王に注意を払った事がなかったのだ。レギンはこわごわと王に近付いた。
王はレギンが目の前まで来て立っていると、眉をしかめた。レギンが自分を恐れている様子がありありと見て取れたからである。
王は一息つくと、
「まあ仕方がない。月に一度しか会わなんだら忘れられもしよう。」
と、独り言の様に呟いた。
「レギン、今日からお前付きとなるサンバールだ。」
王は黒髪の少年の方を指差しながら言った。
「ジャンビャール?」
「サンバールだ。」
王はもう一度ハッキリと名前を言ってサンバールの方に目配せをした。
サンバールは頷いて小さな王子に忠誠を誓う為、王子の元までやって来て跪いた。
「サンバールと申します、王子殿下。これから一生をかけて、命にかえましても殿下をお護り致します。」
サンバールはレギンの手をとって接吻するまねをした。
実際に口を付けてはいない。儀式のようなものだ。
「チャンパール。」
レギンがにっこりと笑った。
「サンバールです。王子殿下。」
サンバールはまだ跪いている。レギンは楽しそうにサンバールの黒髪に手をのばし、髪をひっぱったり頭をたたいたりして遊んだ。その間サンバールは、されるがままになって我慢した。
「これ、レギン、やめないか。」
王は呆れてレギンを止めた。三歳にしては幼すぎる行動を見とがめて、再び眉をしかめた。
「サンバール、レギンを甘やかすだけではなく、時には兄の様に叱ってやってくれ。これは今まで甘やかされ過ぎたようだ。」
「はい。心得ました。」
サンバールは王に向き直って頭を下げた。
「もう下がってよい。レギンを連れてゆけ。」
王が追い払うようにそう言って、サンバールはレギンの手を引いた。レギンは初めて見る男の子が珍しいらしく、嬉しそうにサンバールと王の間を出て行った。今まで王以外には大人の女性にしか会った事はなかったからだ。
この日から、サンバールの災難続きの日々は始まったのだった。

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