オンライン小説〜銀の騎士〜剣と魔法のファンタジー物語

銀の騎士外伝-金の王子-

第2章〜陰謀〜

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(1)

「王妃様が亡くなられました。」

その声は、暖かい部屋で薬草茶を飲んでいたセラムの耳に、突然飛び込んで来た。
挨拶もなく入って来たサンバールにゆっくりと振り向いて聞き返す。

「……え?」
サンバールはいつもと変わらぬ様子で淡々と説明した。

「しばらく病に臥せっていたそうですが、今朝方、静かに息を引き取られたそうです。」
「病に臥せっていた?」

王妃が病気だったとは初耳だ。

「いつから?何の病で?」

セラムは座ったままでサンバールを見上げている。

「詳しい事はわかりません。ですがお身内だけで午後からお別れの儀式をされるそうです。国民には明日発表するとの事です。」

サンバールは、感情を交えず機械的に用件のみを話した。セラムには王妃の死がひとごとのように感じられた。もう十年以上殆ど接した事がなかったからだ。確かに三歳までは一緒に暮らしていたはずなのだが、全く記憶にない。それ以降、顔を見たのは遠くから年に一〜二回。口をきいた事は一度もない。

王妃は身体が弱く、王子を出産した後は殆ど公に姿を見せる事はなかった。
だが、特別な病にかかっているとは聞いていなかった。

「御支度のために間もなく侍女が来ますから、それまで部屋から出ないでいて下さい。私も出席させていただきますので、自室に戻って支度して来ます。」

窓辺に佇み、侍女を待つ時間がやけに長く感じられたのに、気が付くとテーブルの上の薬草茶からはまだほのかに湯気がたっていた。

他人事のように思えて仕方ない。参列している兄弟達も、息遣いを感じるほど真近にいる父王も、そして静かな眠りについた白い顔の母さえも。

サンバールの姿が遠くに見える。

神官が祈りを捧げるつぶやきにも似た小さな声。
葬儀用の紫と茶金の衣装に身を包んだ見知らぬ親戚達。

時折哀しみを誘う鐘が鳴り響く。一体誰が鳴らしているのだろう。父が葬儀の時の鐘つき係でも任命したのだろうか。それともゼンマイ仕掛けで鳴るように細工されているのか。

王とセラムだけが、王妃に別れの言葉をかける事を許された。父王が棺に横たわる王妃の金の髪に触れて、何か呟いている。たくさんの側室を持ちながらも、王は王なりに王妃を大切に思っていたのかも知れない。だが、それは王妃には伝わらなかったのだろう。横たわる王妃は哀しそうに見える。

神官がセラムに別れの言葉を促した。

セラムは棺の前に跪き王妃の顔を覗き込んだ。しっかりと閉じられた瞳は、死して尚、自分と同じ新緑の色をしているのだろうか。流れるような金髪は輝きを失ってはいない。自分と同じ顔がそこにある。王妃は眠っているようにも見える。今にもその瞳が開かれるのではないかと期待したが、虚しくなるだけだった。やはりもっと生きていて欲しかったのだろうか。自分にそっくりな母に。
たとえ話をする事はなくても。

セラムは白い薔薇の花を王妃の胸元にそっと置いて立ち上がった。

王城の地下にある神殿の奥深くに、蓋を閉じられた王妃の棺が埋葬されようとしている時、遠くで鳥の叫びを聞いた。と同時にバサバサとたくさんの鳥が飛び立つ羽ばたきの音がした。あんなに切なく絞り出すような声で哭く鳥がいただろうか。何という鳥だったのか。黒い大きな翼を持った鳥だろうか。それとも子を亡くした親鳥はあんな哭き方をするのかも知れない。

神殿の中は薄暗く湿ったカビの臭いがした。手をまわせないほど太い柱から生き物のようなうねりをもって突き出した燭台に、僅かな明かりがともっている。ろうそくの火に照らされた人々の顔が、まるで王妃を生け贄に捧げようとしている悪魔の手先であるかのように、無気味に笑っているように見える。

閉じられた棺の蓋に、王家の紋章が入っている。
深く掘られた紋章の縁取りは金箔で飾られている。

その嫌味な豪華さが王妃の棺には似合わない気がする。

どうでもいいような事が取り留めもなく頭に浮かんでは消えた。

ふと見回すとサンバールの姿がない。一瞬心臓が止まるかと思うほど取り乱しかけ、必死でサンバールの姿を探した。先程まで棺の向い側の一番後ろにいたはずだ。考えがまとまらなかった。サンバールが消え、自分も王妃と同じように生け贄にされるような恐怖と焦りを感じた。

”サンバール!”

叫びは声にならず、小さく唸って気を失いかけた。
と、咄嗟に暖かい大きな腕に支えられ、セラムの心に安堵が染み渡るように広がっていった。

”この腕は知っている。”

サンバールはすぐ後ろにひかえていた。
儀式が終わり王が神殿を後にすると、サンバールはすぐにセラムの側にやって来ていたのだった。

”大丈夫だ。サンバールはいつも側にいる。”
セラムは気を取り直して出口に向かって歩き出した。
サンバールはセラムの背を支えるようにして黙って付いていった。

二人とも一言も発しなかった。

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