第2章〜陰謀〜
オンライン小説〜銀の騎士〜剣と魔法のファンタジー物語
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第一王子が特別医務室に移された事は、医師団と1名の信頼出来る侍女以外、誰にも知らされなかった。それこそ王にもである。
第一王子の部屋には身替わりがたてられ、王子付きの侍女は他の召し使い達を決して王子の寝室に入れないようにした。エリックの指示である。何故そんな事をするのか理由は分からないが、王子は気分が優れない為、自室に隠って誰にも会わないという事になっている。
王子が服毒した事は、まだ王にも知らせていない。
解毒剤は効いたし、命を落とすような事はないからだ。
案の定次の朝、第一王子は何事もなかったかのように目を覚ました。
幾分身体がだるいのは仕方がないだろう。
「う、ここは何だ。私の部屋ではない。」
セラムはふらつく頭を押さえながら辺りを見回し、覗き込む中年の男と目があった。
「王子殿下、私が誰かわかりますか。」
「侍医長エリックだろう。何なのだ。」
「よろしい。では、昨日あった事をすべてお話下さい。この部屋には私と殿下以外誰もおりません。どうか正直にお話下さい。」
エリックはまだ頭のはっきりしないセラムに容赦なく、厳しい態度で尋問した。
「きのう?何の事だ?」
セラムには事情が飲み込めなかった。頭がズキズキする。
昨日何かあったのか。昨日、昨日、昨日……。
「そうだ、昨日は嫌な夢を見た。身体が思うように動かず熱っぽかった。それから……。」
セラムは思い出そうとして眉間にしわを寄せた。
「どんな夢でしたか?」
エリックは王子のどんな些細な表情も見落とすまいと、真剣に王子を睨んでいる。
その様子がただ事ではないので、セラムは急に胸騒ぎを覚えた。
「夢なんか思い出せない! 何があったんだ! ハッキリ言ってくれ!」
「昨日の事を覚えていないとおっしゃるんですね。」
エリックはハッキリと念を押した。記憶喪失という事もある。しかし、もしそうだとしても思い出す徴候はあった。覚えていないと言いながら、王子は何か重大な事があったのを知っている。
「何があったんだ! サンバール、サンバールはどうした!? どこにいる!?」
サンバール。その名前を口にした途端、昨日の恐ろしい夢が蘇った。
「思い出した。サンバールが血を流して……。恐ろしい夢だった。私は恐ろしくて動く事も出来なかった。サンバール、サンバールは無事なのか!?」
王子は取り乱している。夢だと言いながらサンバールの無事を確かめたがっている。夢でない事を無意識に知っているのか。どちらにしても精神は病んでいる。エリックは医者として王子の様子を分析した。
「エリック!! 答えてくれ!」
セラムがヒステリックに叫んだ。
「サンバールは大丈夫です。落ち着いて下さい、殿下。」
「大丈夫? 本当か? 何ともないのか?」
「殿下のおっしゃる通り、サンバールは負傷しましたが、命に別状はありません。今は眠っております。」
エリックは嘘をついた。本当はとても危険な状態だったのだ。
「どこにいる! 会わせてくれ!」
セラムは勢いよくベットから飛び下りた。しかし、まだ身体は思い通りに動かず、よろけて床に膝を落とした。頭がぐらぐらとして立ち上がる事が出来ない。
「殿下、無茶は止めて下さい。サンバールは今、面会謝絶です。でも必ず元気になりますから、殿下は御自分の身体を心配為さって下さい。」
セラムはエリックに助け起こされ、再びベットに入った。
「なぜ、毒など飲まれたのです!?」
エリックが厳しい口調で追求する。
「毒?」
「ギドルの毒です。」
「何の事だ?」
セラムは頭を押さえながらベットの中で半身を起こし呟いた。エリックの言っている事は意味が分からない。サンバールは本当に大丈夫なのか。なぜ、自分の身体を心配しなければいけないのだ。毒とは何の事だ。
次から次へと疑問が湧いて来たが、だるくて口を開く事が出来ない。
「昨日の夜、殿下は自室のベットでギドルの毒を飲まれたのです。」
エリックはもう一度ゆっくりと説明した。
「……私が? そんな事知らない。」
セラムは興味なさ気に短く答えた。
「殿下。きちんとお話して下さい。では、毒を飲まれたのは殿下の意志ではないのですね?」
「私はそんなもの飲まない。」
ぶっきらぼうに言ってから、セラムは思い出したようにエリックに向き直った。
「いや、待て。目が醒めて咽が渇いて、ベットの横に置いてあった水差しから水を飲んだ。途端に苦しくなって人を呼んだ。あれはギドルだったのか。」
セラムの頭が徐々にハッキリとして来た。
「昨日はいい天気だった。王宮の裏の森で狩りをしようとサンバールと出かけた。少しすると、ひらけたところに出て馬をつないだ。おかしな音がして振り返った。サンバールが胸に短剣を……。ああ、サンバール!」

王子はぶつぶつと呟くように話し出したかと思ったら、いきなり頭を抱えて震え出した。
「殿下、大丈夫です。サンバールは無事です。」
エリックはそっと王子の金の髪を撫でた。
「誰がサンバールを! 誰が!」
セラムは絞り出すように叫んだ。
「ひと影は見なかったのですね?」
「誰もいなかった。誰も。短剣は王家の者しか持っていないものだった。誰がサンバールを!」
エリックは陰謀の匂いを感じて気の毒な第一王子を見つめた。
「さあ、もう大丈夫ですから、もう少しお眠り下さい。これを飲んで。」
植物から採取したよく眠れる薬を飲ませると、第一王子はすっと眠りに落ちた。
サンバールを刺したのは王子ではなかった。そして疑いの渦中にあった王子も、直後に毒を盛られた。もしかすると始めからサンバールではなく王子を狙っていたのかも知れない。サンバールは王子を庇って身替わりになったのではないか。だとすると、王妃様を亡き者にしたのと同じ輩が、第一王子のお命を狙ったのではないか。
王妃様の死因は証拠こそないが、なんらかの毒だったと考えられる。同じ毒を使わなかったのは、同一犯人と分からせない為か。それとも、サンバール刺殺の罪で第一王子が王位につけなければ、殺す必要はないと思ったのか。
”王に御報告申し上げねばなるまい。”
エリックは、隣の部屋でサンバールを診ていたスーリを呼び、王子の側を片時も離れぬ様指示した。
「どうしたのですか?」
スーリは不審そうな顔である。
「第一王子はお命を狙われている。信用出来るのが誰なのかわからない。誰にも気を許さず王子をお護りしてくれ。」
エリックはスーリの両肩に手をのせ、その顔をじっと見つめた。
ポンポンと二回肩をたたくと、そのまま黙って部屋を出て王の元へと急いだ。
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