オンライン小説〜銀の騎士〜剣と魔法のファンタジー物語

銀の騎士外伝-金の王子-

第4章〜船出〜

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(1)

サンバールに会うのは十日振りだった。たった十日の事だが、サンバールの顔を見ないと落ち着かない。やっと屋敷に帰って来たサンバールの、笑った時にちらりと見える白い歯が、妙に懐かしかった。

セラムは小さな子供に戻ったように、思わずサンバールに抱きついてしまい、リュニアル家の人々を大いに驚かせた。

セラムが王宮の特別医務室からリュニアル家に移る事を決めたのは、犬のいない暮らしの淋しさからだった。王宮の医務室にいたのでは、犬と共に過ごす事が出来ない。そこでセラムは犬に会う為、リュニアル家にやって来た。

しかし、犬はもう年老いていた。せっかくまた一緒に暮らせるようになったのに、ある日セラムが目覚めると、白い大きな犬は眠るように死んでいたのだった。

これほど哀しかった事は今までなかった。胸が締め付けられ、冷たくなった犬をいつまでも放したくなかった。咽の奥が熱く引きつれ、口を開こうとすると涙が止まらなくなった。

犬はサンバールと同じくらい大切な、セラムの友達だったのだ。
犬が死んだ時、サンバールは公務に忙しく、屋敷になかなか戻れなかったのだった。

「セラムが……!」

やっと帰って来たサンバールにしがみついて泣きじゃくる王子を、リュニアル家の人々は見てはいけないもののような気がして、そっと席を外した。二人きりになった時、サンバールはセラムの頭を優しく撫でながら言った。

「生きている者はいつか必ず死ぬのですよ。王妃様も、セラムも。それに私だっていつかは死ぬのです。あなたはそれを乗り越えて一番長生きをしなければいけない。世継ぎの王子なのですから。」

「そんなのは嫌だ。私は……!」
セラムは言葉を詰まらせた。またあの熱い固まりが咽の奥につまって声にならなかった。

「あなたはもっと強くならなければいけません。セラムは天寿を全うしたのです。あなたが潔く旅立てるようにと願っているはずですよ。」

「どこに行けって言うのだ。ここに来るのだって大変だったのに。もっと早く、ここに来ていればよかったんだ。セラムは半年も一人にされて淋しくて死んだんだ。私のせいだよ。セラムはもっと長生き出来たはずなのに。」

熱い固まりがどっと吹き出して、言葉が後から後から流れ出した。

「例えそうだとしても、あなたの為に死ぬ事は誰にだって喜びなのですよ。私だってそうです。あなたの為に命を落とす事になっても、恨んだりしませんよ。あなたは貴いお方なのですから。」

「やめてくれ。私はそんなのは嫌だ。君にそんな事言われたくない。」

サンバールは自分を慕う王子をわざと突き放した。セラムはもっと王子としての威厳を、他の貴族達に示さねばならない。サンバールの言いなりだという風評は、即位の際に必ずよからぬ結果を招く。まして、どこで使用人が訊いているかわからない場所では、弱味を見せるべきではない。その事を知って欲しかった。

「あなたはいつでも一人です。私に頼りすぎてはいけない。為政者とは孤独なものです。それに打ち勝たなければいけない。死を嘆いている時間はないのです。」
だがサンバールの思いは、哀しみにうちひしがれた王子には伝わらなかった。

「もういい。訊きたくない。」
セラムは部屋に走って行ってしまった。サンバールは諦め顔で溜め息をついた。
本当はこんな風に頼られて嬉しいと思っている自分を戒めながら。
しかし反面、

”私は王子の教育係ではない。こんな事にまで気を揉む必要がどこにある”

そういう気持ちもあった。王子とは対等の友人として付き合うほうがよいのではないか、という思いもないわけではない。そして友人として考えるなら、王子があんなに嫌がっている世継ぎの座を、
”そんなに嫌なら捨ててしまえ”
と言ってやりたかった。

「旅の許可がおりた事、言いそびれてしまったな。」

泣き顔とも笑みともつかぬ顔でひとり呟いたサンバールを、見ているものは誰もいなかった。

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