第1章〜王宮〜
オンライン小説〜銀の騎士〜剣と魔法のファンタジー物語
Prologue
ピクリとも動く事は出来なかった。
感情は激流の様に当たり構わず荒れ狂っているのに、頭は冷静に目の前に起こった出来事を観察いている。
すぐにでも駆け寄りたかった。抱き起こして呼び掛けたかった。
どんな事をしてでも助けたかった。しかし、どうしても動く事は出来なかった。
指の先の感覚がない。
本当にこれが自分の身体かと訝しまれるほど、感覚という感覚は麻痺していた。
「サンバール。」
セラムは声をかけ、力を振り絞って右腕をのばした。
しかしそうしたと思ったのは心の中だけで、実際には声は発せず、腕も動いてはいない。
「サンバール!!!」
セラムはもう一度声の限りに叫んだ。
叫んだと思った。
だが結果は唇すらも動かす事が出来ず、無力な自分を思い知るだけだった。
時が止まったように感じた。
淀んだ虚無の空間にサンバールと二人して迷い混んでしまった。
だから動く事が出来ないのだと思いたかった。
それは妄想でしかなかった。
目の前のサンバールは血を流し、目は閉じられている。胸に溢れた血のシミは、何も出来ずに立ちすくむセラムの視界に、どんどん広がって終いにはすべてが真っ赤に染まりそうだった。
大量の血を失ったサンバールの顔色は、次第に蒼白になって来る。
誰よりも大切なサンバールの命の灯火が消えかかっているというのに、ただ見ている事しか出来ない自分が呪わしかった。
サンバールの為にどんな事でもしたいと思っているのに、なぜ身体がいう事を聞かないのか。
一番大事な時に何の役にも立たないなんて。
サンバールを見殺しにしようとしているなんて。
「こんな木偶の坊は死んでしまえ。」
セラムは自身に呪の言葉を吐きかけた。もちろん声は発せられなかった。
ジリジリと追い込まれていく。
このままではサンバールが死んでしまう。いや、もう生きてはいないのかも知れない。
死人のような顔色をしている。大切な人が生きているかどうかさえ確かめる事が出来ない。
サンバールをむざむさ殺してしまうような私が、なぜこうして生きているのか。
そうだ、なぜ生きている!
誰か、早く私を殺してくれ!
こんなモノを私に見せないでくれ!
サンバールが死にゆく姿など見たくない!
誰か!!
誰か!!!!!
今すぐ、
私を殺してくれ…………
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